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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)346号 判決 2000年11月09日

原告

ブラザー工業株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

熊倉禎男

田中伸一郎

飯田圭

被告

特許庁長官【B】

指定代理人

【C】

【D】

【E】

【F】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成9年異議第75135号事件について平成10年9月25日にした決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「カラオケ装置」とする特許第2605454号の特許(平成2年6月19日出願、平成9年2月13日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。

特許庁は、平成9年10月31日、ヤマハ株式会社から、本件特許について特許異議の申立てを受け、平成9年異議第75135号事件として審理した。原告は、上記審理の過程で、平成10年2月26日付けの取消理由通知を受け、同年5月18日、上記特許の願書に添付した明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)の請求をしたものの、さらに、同年6月9日付けで訂正拒絶理由通知を受けたため、同年8月25日付けで手続補正書を提出した。特許庁は、上記事件を審理した結果、同年9月25日、「特許第2605454号の特許を取り消す。」との決定をし、同年10月12日、その謄本を原告に送達した。

2  特許請求の範囲

(1)  訂正前

「多数の曲の各々について演奏データを含む音楽データ及びこれに対応する歌詞データを記憶する演奏/歌詞データ記憶手段と、

前記演奏/歌詞データ記憶手段から演奏データおよび歌詞データを読み出す制御手段と、

この制御手段により読み出された演奏データを再生する演奏再生手段と、

前記制御手段により読み出された歌詞データに基づいて歌詞を表示する表示手段とを有するカラオケ装置において、

前記歌詞データは、表示手段に表示される歌詞の表示単位毎に区分されて記憶されると共に、前記音楽データには、その区分されて記憶された歌詞データのブロックを指定するインデックス情報と、その歌詞データに基づく歌詞の表示開始と表示終了を指示する指示情報を更に有し、前記制御手段は、インデックス情報と指示情報に基づいて演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示制御することを特徴とするカラオケ装置。」

(2)  訂正後

「多数の曲の各々について演奏データを含む音楽データ及びこれに対応する歌詞データを記憶する演奏/歌詞データ記憶手段と、

前記演奏/歌詞データ記憶手段から演奏データおよび歌詞データを読み出す制御手段と、

この制御手段により読み出された演奏データを再生する演奏再生手段と、

前記制御手段により読み出された歌詞データに基づいて歌詞を表示する表示手段とを有するカラオケ装置において、

前記歌詞データは、表示手段の画面横1行に表示される歌詞の表示単位毎に区分されて記憶されると共に、前記音楽データには、その区分されて記憶された画面横1行分の歌詞データを指定するインデックス情報と、画面横1行分の歌詞データに基づく歌詞の表示開始を指示する指示情報と、その表示開始を指示する指示情報とは別体の表示終了を指示する指示情報とを更に有し、前記制御手段は、インデックス情報と、歌詞の表示開始を指示する指示情報と、表示終了を指示する指示情報とに基づいて演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞を画面横1行単位で表示制御することを特徴とするカラオケ装置。」

3  本件決定の理由の要旨

(1)  本件訂正に係る発明(以下「訂正発明」という。)の要旨は、前項(2)記載のとおりである。

(2)  本件訂正の適否について

(イ) 訂正発明と実願昭59-158557号(実開昭61-73200号)のマイクロフィルム(甲第5号証。以下「引用刊行物1」という。)に記載された技術(以下「引用発明1」という。)とを対比すると、(A)訂正発明においては、「歌詞データは、表示手段の画面横1行に表示される歌詞の表示単位毎に区分されて記憶され」、「画面横1行分の歌詞データを指定するインデックス情報」に基づいて、「歌詞を画面横1行単位で表示制御する」ものであるのに対して、引用発明1は、歌詞データの記憶の単位及び表示単位について明記されていない点で相違している点(相違点1)、(B)訂正発明においては、音楽データには、「歌詞データを指定するインデックス情報」と、「歌詞の表示開始を指示する指示情報」と、「表示終了を指示する指示情報」を有し、「制御手段は、インデックス情報と、歌詞の表示開始を指示する指示情報と表示終了を指示する指示情報とに基づいて演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞を」「表示制御する」のに対して、引用発明1には、このような情報、ならびに、これらの情報に基づく制御手段による制御が、具体的に記載されていない点(相違点2)で相違し、その余は一致する。

(ロ) 相違点1についての判断

歌詞データを一区切りの「ブロック」を単位として記憶し、ブロックを指定する情報に基づいて表示することについては、特開昭58-55988号公報(甲第6号証。以下「引用刊行物2」という。)、実願昭59-187210号(実開昭61-102892号)のマイクロフィルム(甲第7号証。以下「引用刊行物3」という。)に記載されており、また、カラオケ装置において、画面に表示される歌詞の表示を行単位に制御することは、例えば、特開昭60-154387号公報(甲第9号証。以下「甲第9号証刊行物」という。)に記載されているように、通常行われていることであるから、引用発明1において、歌詞データを「画面横1行分」単位の「ブロック」とし、そのブロック単位で前者のような記憶、表示制御を行なうようになすことに格別の困難性は認められない。

(ハ) 相違点2についての判断

歌詞として表示される文字情報を、歌詞に対応する伴奏の始まる直前から終わる直前(又は直後)まで表示すること、すなわち、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示することは、特開昭58-159081号公報(甲第8号証。以下「引用刊行物4」という。)に記載されており、文字データ等の情報を表示手段に所望の時間表示する場合に、制御手段を設け、情報の表示開始と表示終了をそれぞれ指示する指示情報とに基づいて表示制御することは、当業者が容易に想到しうる設計的事項にすぎない。

(ニ) 結論

訂正発明は、上記引用刊行物1ないし4記載の技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。また、訂正発明の効果は、上記引用刊行物1ないし4記載の事項から容易に予測し得る程度のものであって、格別顕著なものとは認められない。よって、訂正発明は、特許法29条2項に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)  本件発明の特許性

(イ) 本件発明(本件訂正前の特許請求の範囲によるもの)と引用発明1とを対比すると、(A)本件発明においては、「歌詞データは、表示手段に表示される歌詞の表示単位毎に区分されて記憶され」、「ブロックを指定するインデックス情報」に基づいて、「歌詞をブロック単位で表示制御する」ものであるのに対して、引用発明1は、歌詞データの記憶の単位及び表示単位について明記されていない点(相違点1)、(B)本件発明においては、音楽データには、「歌詞データのブロックを指定するインデックス情報」と、「歌詞の表示開始と表示終了を指示する指示情報」を有し、「制御手段は、インデックス情報と指示情報に基づいて演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示制御する」のに対して、引用発明1には、このような情報、並びに、これらの情報に基づく制御手段による制御が、具体的に記載されていない点(相違点2)で相違し、その余は一致する。

(ロ) 相違点1についての判断

歌詞データを一区切りの「ブロック」を単位として記憶し、ブロックを指定する情報に基づいて表示することについては、引用刊行物2、3に記載されており、これを引用発明1に適用することに、格別の困難性は認められない。

(ハ) 相違点2についての判断

引用刊行物2、3には、表示単位に記憶された歌詞を演奏と同期して表示制御することが記載されており、このような制御を行うために、制御手段が「歌詞データのブロックを指定するインデックス情報」と「歌詞の表示開始と終了を指示する指示情報」に基づいて、制御するよう構成することは当業者が容易になし得ることである。なお、文字データ等の情報を表示手段に所望の時間表示する場合に、情報の表示開始を指示する指示情報と、表示終了を指示する指示情報とに基づいて表示制御することも、当業者が容易に想到しうる設計的事項にすぎない。

(ニ) 結論

本件発明は、上記引用刊行物1ないし3記載の技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。また、本件発明の効果は、上記引用刊行物1ないし3記載の技術から容易に予測し得た程度のものであって、格別顕著なものとは認められない。よって、本件発明は、特許法29条2項に該当し、特許を受けることができないものである。

第3原告主張の審決取消事由の要点

本件決定中、(1)は認める。(2)(イ)は認め、(ロ)、(ハ)及び(ニ)は争う(ただし、(ロ)のうち、歌詞データを一区切りの「ブロック」を単位として記憶し、ブロックを指定する情報に基づいて表示することについて引用刊行物2、3に記載されていること、(ハ)のうち、歌詞として表示される文字情報を、歌詞に対応する伴奏の始まる直前から終わる直前(又は直後)まで表示することが引用刊行物4に記載されていることは認める。)。(3)(イ)は認め、(ロ)、(ハ)及び(ニ)は争う(ただし、(ロ)のうち、歌詞データを一区切りの「ブロック」を単位として記憶し、ブロックを指定する情報に基づいて表示することについて引用刊行物2、3に記載されていることは認める。)。

本件決定は、まず、本件訂正の適否に関し、訂正発明と引用発明1との相違点1及び同2についての判断を誤った結果(取消事由1及び同2)、本件訂正は認められないとの結論を導き、続いて、本件発明(本件訂正前の特許請求の範囲によるもの)と引用発明1との相違点2についての判断をも誤った結果(取消事由3)、本件特許は認められないとの結論を導いたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

なお、本件訂正の適否に係る主張に関して、以下、便宜上、相違点1を、①歌詞データが所定の歌詞の表示単位毎に区分されて記憶され、これを指定するインデックス情報に基づいて表示制御されること(相違点1①)、②区分されて記憶され、表示制御される所定の歌詞の表示単位が表示手段の画面横1行に表示される歌詞の表示単位であること(相違点1②)に区分し、相違点2を、①音楽データが歌詞データを指定するインデックス情報と歌詞の表示開始を指示する指示情報と歌詞の表示終了を指示する指示情報とを有すること(相違点2①)、②制御手段がこれらの各情報に基づいて演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞を表示制御すること(相違点2②)に区分して述べる。

1  取消事由1(本件訂正の適否に係る相違点1についての判断の誤り)

本件決定は、相違点1②について、カラオケ装置において、画面に表示される歌詞の表示を行単位に制御することは、例えば、甲第9号証刊行物に記載されているように、通常行われていることである、と認定した。しかし、この認定は誤っている。

(イ)  甲第9号証刊行物に記載されている技術(以下「周知技術1」という。)は、単にアナログ方式の「ビデオディスク再生装置等の再生装置を使用してカラオケ用映像と音声を再生するために用いる記録装置に関する」(1頁左欄14行~16行)ものにすぎず、「カラオケ用歌詞で現在歌う小節と次に歌う小節の歌詞とを共に常に映像として映出するように記録装置に記録するようにし」(1頁右欄18行~2頁左上欄1行)、「実際に歌う歌詞の部分と次に歌う歌詞の部分が常に並設されて映出され」(2頁右上欄16行~18行)るようにしたものである。そして、同刊行物の第3図を考慮すると、周知技術1における所定の歌詞の表示単位は、画面横1行ではなく、画面横複数行に表示されるものである。したがって、周知技術1は、相違点1②の技術を開示も示唆もしていないから、これに基づいて、相違点1②が通常行われている技術的事項であるということもできない。

(ロ)  上記のとおり、周知技術1における所定の歌詞の表示単位は、画面横複数行であり、訂正発明が従来技術とする技術的事項を開示しているにとどまるので、周知技術1は、これに基づいて相違点1②に係る訂正発明に想到する動機付けとなり得ないものである。

2  取消事由2(本件訂正の適否に係る相違点2についての判断の誤り)

(1)  本件決定は、相違点2②について、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示することは、引用刊行物4に記載されている、と認定した。しかし、この認定は誤っている。

(イ) 引用刊行物4に記載された発明(以下「引用発明4」という。)は、単にアナログ方式の「カラオケビデオ、すなわち歌うべき曲の伴奏となる音声情報と、該曲の歌詞となる文字情報と、該曲の背景となる映像情報とが記録されているビデオテープにおける上記歌詞情報の表示方法に関する」(1頁左欄12行~16行)ものにすぎず、音声情報と文字情報と映像情報とを混合して記録再生装置7で記録し、「記録再生装置7を再生状態にすると例えば第2図に示す如く、映像情報Aと文字情報Bが表示器9によって表示されると共に、発音器11より伴奏曲が再生される」(2頁右上欄18行~左下欄1行)ものである。このように、引用発明4は、アナログ方式で音声情報と文字情報と映像情報とを混合して記録し、これに基づき歌詞を表示する方法に関する技術であるので、デジタル方式で情報を記憶して、これに基づき歌詞の表示制御を行う訂正発明にいう、制御手段が歌詞データを指定するインデックス情報と歌詞の表示開始を指示する指示情報とこれとは別体の歌詞の表示終了を指示する指示情報とに基づいて演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞を表示制御するという構成(相違点2②)を開示も示唆もしていない。

(ロ) 引用発明4は、引用発明1とは「技術課題」、しかも「演奏再生手段により再生する演奏と共に歌詞を表示する」という極めて抽象的なレベルにおいてしか共通していない。

引用発明4は、上記のとおり、アナログ方式で音声情報と文字情報と映像情報とを混合して記録し、これに基づき歌詞を表示する方法に関する技術であって、デジタル方式で情報を記憶して、これに基づき歌詞の表示制御を行う技術に関する訂正発明や引用発明1とは、基本的な技術課題の解決原理において異なるものである。したがって、上記共通性は、引用発明1に引用発明4を適用する動機付けとなり得ないものである。

(2)  本件決定は、相違点2①について、文字データ等の情報を表示手段に所望の時間表示する場合に、制御手段を設け、情報の表示開始と表示終了をそれぞれ指示する指示情報とに基づいて表示制御することは、当業者が容易に想到しうる設計的事項にすぎないと認定した。

しかし、相違点2①が、引用刊行物1ないし4にも甲第9号証刊行物にもない特有の新規な構成であることは、本件決定自体が認めているところである。これを設計的事項にすぎないとする上記認定は、これが訂正発明に特有の新規な構成であるとする、自らの上記判断と論理矛盾するものであり、違法である。

被告が相違点2に係る周知慣用性を立証するために提出した乙第1号証(実願昭57-90396号(実開昭58-193394号)のマイクロフィルム。以下「乙第1号証刊行物」という。)に記載された技術(以下「周知技術2」という。)及び乙第2号証(特開平1-212186号公報。以下「乙第2号証刊行物」という。)に記載された技術(以下「周知技術3」という。)は、いずれも、相違点2①を全く開示も示唆もしていない。特に、周知技術2は、歌詞の歌い出しのタイミングを取らせるための独自の表示に関わる情報を記憶し、当該情報に基づいて、歌詞の歌い出しのタイミングを取らせるための独自の表示を制御する技術を採用したものであるので、訂正発明のような、歌詞の表示自体に関わる情報を記憶し、当該情報に基づいて歌詞の表示自体を制御する技術によっては、歌唱しやすくし難いものとの認識を前提としており、訂正発明に想到するものとして検討すべき適格性を欠くものである。また、周知技術3は、映像記録再生装置において、映像に静止画をいつでも書き換え自由にインポーズする技術一般に関するものであって、およそ、訂正発明のように、カラオケ装置において、歌詞の表示に関わる情報を記憶し、当該情報に基づいて、歌詞の表示を制御して、歌唱しやすくする技術に関するものではない。

3  取消事由3(本件発明に係る相違点2についての判断の誤り)

本件決定は、本件発明に係る相違点2について、引用刊行物2、3には、表示単位に記憶された歌詞を演奏と同期して表示制御することが記載されており、このような制御を行うために、制御手段が「歌詞データのブロックを指定するインデックス情報」と「歌詞の表示開始と終了を指示する指示情報」に基づいて、制御するよう構成することは当業者が容易になし得ることであると判断したが、この判断は誤っている。

相違点2は、引用発明2及び引用発明3に何ら開示されていないから、引用発明1に同2及び同3をどのように組み合わせたとしても、本件発明を構成することはできない。

しかも、上記相違点2に係る本件発明における具体的なデータ構成、すなわち、演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示制御するために制御手段が基づくデータとして、音楽データが、その区分されて記憶された歌詞データのブロックを指定するインデックス情報と、その歌詞データに基づく歌詞の表示開始と表示終了を指示する指示情報を更に有するものとしたことについては、全く開示も示唆もされていない。

第4被告の反論の要点

本件決定の認定判断は、すべて正当であり、本件決定を取り消すべき理由はない。

1  取消事由1(本件訂正の適否に係る相違点1についての判断の誤り)について

甲第9号証刊行物には、「第3図において、Aは「北の酒場通りには」の小節を歌う期間の歌詞の映出状態で、ビデオディスク3の記録領域4Aが再生されてその演奏音が再生されると同時に映出される。この時、画面5には「北の酒場通りには」という現在歌う歌詞6Aの下の行には次に歌う小節の「長い髪の女が似合う」の歌詞6aが映出され、これは歌い手の予備知識として使われる。Bは一小節が終って次に記録領域4Bが再生されるときの状態で、「長い髪の女が似合う」の小節を歌う期間に映出される。この時、現在歌う歌詞6Bの下の行には次に歌う小節の「ちょっとお人良しがいい」の歌詞6bが映出され、予備知識として使われる。以下、一小節終る毎にB→C→・・・のように、同様に再生され表示される。」(2頁左上欄15行~右上欄9行)とあるとおり、一小節を歌う期間には、現在歌う歌詞と次に歌う小節の歌詞を上下の行に表示し、次の小節を歌う期間には下の行に表示されていた歌詞を上の行に表示し、その次の小節の歌詞を下の行に表示することを一小節終わるごとにくり返すように制御されているから、画面に表示される歌詞の表示を行単位に制御する技術が記載されている。

また、引用発明1のカラオケ装置と、引用発明2、3及び周知技術1は、演奏とともに表示される歌詞の表示制御を行なう点で、技術課題が共通するものであるから、周知技術1が相違点1②に想到する動機付けとなり得ないとする原告の主張は理由がない。

2  取消事由2(本件訂正の適否に係る相違点2についての判断の誤り)について

(1)  引用刊行物4には、「歌詞として表示される文字情報を、歌詞に対応する伴奏の始まる直前から終わる直前(又は直後)まで表示すること」が記載されていることは原告も認めるとおりである。そして、上記「歌詞として表示される文字情報」は、その伴奏(演奏)に対応する期間、すなわち演奏と同期して、伴奏に対応する歌詞のまとまり(ブロック)を単位として表示されるものであるから、引用刊行物4に演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示することが記載されているとした本件決定の認定に誤りはない。

引用発明1のカラオケ装置は、「音楽再生装置1で再生された伴奏音楽がスピーカーから流れ、一方再生装置1で再生された歌詞の映像信号と出力装置2が出力した映像信号とがミクサー3に入力され、それらがミキシングされて受像機4に出力され、選定した背景と共に歌詞が映像として受像機4に表示される。」(引用刊行物1の3頁15行~20行)ものであるから、演奏再生手段により再生する演奏と共に歌詞を表示するという、引用発明4のカラオケ装置と技術課題が共通するものであり、引用発明1に引用発明4を適用する動機付けがないとする原告の主張は理由がない。

(2)  文字データ等の情報を所望の態様で表示するため、制御手段を設けることは、当業者の常套的手法である。そして、文字情報を、引用発明4のように、伴奏の開始直前から終了直前(又は直後)まで表示するために、制御手段が、文字情報の表示開始と表示終了をそれぞれ指示する指示情報に基づいて表示制御するよう構成することは、当業者が格別の困難性なく想到しうることである。そして、引用発明1のカラオケ装置に、引用発明4の技術思想である「演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示すること」を適用する際に、音楽データには「歌詞データを指定するインデックス情報」に加えて「歌詞の表示開始を指示する指示情報」と「表示終了を指示する指示情報」を有し、「制御手段は、インデックス情報と、歌詞の表示開始を指示する指示情報と表示終了を指示する指示情報とに基づいて演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞を」「表示制御する」よう構成することは、当業者において格別の困難性なく行ない得たものである。

表示すべき情報を、制御手段により所望の期間表示する場合に、表示すべき情報の表示開始を制御する情報と、表示終了を制御する情報に基づいて表示制御することは、例えば、乙第1号証において、「歌い出しのタイミングを取らせる信号」の表示期間は、表示開始を制御する情報である「所定期間の始りに対応するフレーム番号N1」、表示終了を制御する情報である「(所定期間の)終りに対応するフレーム番号N2」に基づいて制御され(5頁5行~6頁17行)、乙第2号証において、「インポーズデータ」の表示期間は、表示開始を制御する情報である「インポーズ開始信号」と、表示終了を制御する情報である「インポーズ終了信号」に基づいて制御される(4頁左上欄6行~右上欄1行)ように、当業者において通常行われる手法である。したがって、引用刊行物1のカラオケ装置において、歌詞である文字情報を、引用刊行物4のように、伴奏の開始直前から終了直前(又は直後)まで表示するために、制御手段が、文字情報の表示開始と表示終了をそれぞれ指示する指示情報に基づいて表示制御するよう構成することは、当業者が格別の困難性なく想到しうることである。

3  取消事由3(本件発明に係る相違点2についての判断の誤り)について

引用発明2は、「出力テーブルは、複数に区切られた歌詞データと、・・・所定位置に設けた歌詞の区切りを示すデータ(図中”00”で示している)とを有している。」(引用刊行物2の2頁左下欄8行~17行)、「そして、ポインタOPに対応する音階データを音階テーブルから読み取り、該音階データを出力テーブルの音長データ分の長さだけ可聴信号として出力し、ポインタKPで示される1区切りの歌詩を歌詩表示部に表示する。」(3頁右下欄8行~12行)ことにより、「伴奏するメロディーにあわせて一区切り宛歌詞を表示する」(4頁左上欄19行~20行)ものであり、また、引用発明3も、「このようにアドレスカウンタ24の内容が上記歌詞書換データにしたがって最初に+1されると、歌詞データROM23からは選曲された楽曲の第1小節分の歌詞データが読み出され、・・・液晶表示装置13には、選曲された楽曲の第1小節分の歌詞データが、例えば第3図(b)に示す如く、英文で表示される。」(引用刊行物3の11頁8行~18行)、「第2小節の第1楽音データがミュージックデータROM17から読み出されると、これと同時に読み出される歌詞書換データは「1」となり、その結果、アドレスカウンタ24の内容が+1され、歌詞データROM23からは第2小節分の歌詞データが読み出される。これによって、液晶表示装置13に表示される歌詞データが第1小節から第2小節のデータに書き換えられる。」(13頁12行~20行)ことにより、「液晶表示装置13には発音される楽曲の歌詞データがアルファベット等の文字で表示されると共に、その楽曲が1小節発音される毎に表示内容は次の小節の歌詞データに書き換えられる」(13頁末行~14頁4行)ものであるから、歌詞データは演奏と同期して表示されるものといえる。したがって、引用刊行物2及び同3には「表示単位に記憶された歌詞」を「演奏と同期して表示すること」が記載されているとした認定に誤りはない。

また、文字データ等の情報を所望の態様で表示するため、制御手段を設けることは、当業者の常套的手法であること、そして、制御手段が、文字情報を所望の期間表示するため、文字情報の表示開始と終了を指示する指示情報に基づいて表示制御するよう構成することは、当業者が格別の困難性なく想到し得ることは、前2(2)で述べたとおりである。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(本件訂正の適否に係る相違点1についての判断の誤り)

本件決定が、相違点1について、カラオケ装置において、画面に表示される歌詞の表示を行単位に制御することは、例えば、甲第9号証刊行物に記載されているように、通常行われていることであると認定したことに対して、原告は、甲第9号証刊行物に記載されている技術(周知技術1)における所定の歌詞の表示単位は、訂正発明におけるような画面横1行ではなく、画面横複数行に表示されるものであり、周知技術1は、相違点1②の技術を開示も示唆もしていないから、これに基づいて、相違点1②が通常行われている技術的事項であるということもできない旨主張する。

(1)  甲第9号証(特開昭60-154387号公報)によれば、同刊行物には、「本発明は、ビデオディスク再生装置等の再生装置を使用してカラオケ用映像と音声を再生するために用いる記録装置に関する。」(1頁左下欄14行~16行)、「第2図は本発明の記録装置の一実施例のビデオディスクを示し、第3図はこれを再生したときに映像として表示された歌詞を示すものである。第3図において、Aは「北の酒場通りには」の小節を歌う期間の歌詞の映出状態で、ビデオディスク3の記録領域4Aが再生されてその演奏音が再生されると同時に映出される。この時、画面5には「北の酒場通りには」という現在歌う歌詞6Aの下の行には次に歌う小節の「長い髪の女が似合う」の歌詞6aが映出され、これは歌い手の予備知識として使われる。Bは一小節が終って次に記録領域4Bが再生されるときの状態で、「長い髪の女が似合う」の小節を歌う期間に映出される。この時、現在歌う歌詞6Bの下の行には次に歌う小節の「ちょっとお人良しがいい」の歌詞6bが映出され、予備知識として使われる。以下、一小節終る毎にB→C→・・・のように、同様に再生され表示される。」(2頁左上欄12行~右上欄9行)、「行の上下の差のみならず両歌詞の「色」を変えたり、一方に「枠」を付けるとかして区別を明確にするとよい。」(2頁右上欄12行~14行)、「本発明によれば・・・実際に歌う歌詞の部分と次に歌う歌詞の部分が明確に区別できるように行分けや色分け等されている」(2頁右上欄16行~20行)との記載があること、第3図(A)には、画面5に、「北の酒場通りには」と「長い髪の女が似合う」という歌詞が上下2段に映出され、(B)には、同画面に、「長い髪の女が似合う」と「ちょっとお人良しがいい」という歌詞が上下2段に映出され、(C)には、同画面に、「ちょっとお人良しがいい」と「口説かれ上手な方がいい」という歌詞が上下2段に映出されていることが示されていることが、それぞれ認められる。

(2)  上記記載によれば、カラオケ用のビデオディスクを再生したときに、常に、上段に現在歌う小節の歌詞が横1行に映出され、下段に次に歌う小節の歌詞が横1行に映出され、一小節終るごとに上下段の歌詞が再生され表示されるものであり、そうすると、歌詞の表示は2行にわたっているが、歌詞の表示箇所は順に1行づつ上にずれていくのであり、歌詞の表示の変更は、行単位で行われていくのであるから、表示制御が画面横1行単位に行われていることは明らかである。

(3)  原告は、訂正発明における所定の歌詞の表示単位が画面横1行であることを前提に、周知技術1における所定の歌詞の表示単位は、画面横複数行であり、訂正発明が従来技術とする技術的事項を開示しているにとどまるので、周知技術1は、これに基づいて相違点1②に係る訂正発明に想到する動機付けとなり得ない旨主張する。

しかし、本件訂正後の特許請求の範囲には、歌詞の画面表示について、「前記歌詞データは、表示手段の画面横1行に表示される歌詞の表示単位毎に区分されて記憶される」、「前記制御手段は、インデックス情報と、歌詞の表示開始を指示する指示情報と、表示終了を指示する指示情報とに基づいて演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞を画面横1行単位で表示制御することを特徴とする」などと記載されており、歌詞を画面横1行の単位で区分して記憶し、表示制御する構成とされているのみであって、歌詞の表示単位を画面横1行に限定する構成とされていないことが特許請求の範囲の記載自体から明らかである。したがって、原告の主張は、前提において既に認められないものである。

仮に、訂正発明が、原告主張のとおり、歌詞の表示単位を画面横1行に限定するものであると認定し得る余地があるとしても、周知技術1は、上記認定のとおり、歌詞の表示は2行にわたるが、歌詞の表示箇所は順に1行ずつ上にずれていくというものであり、歌詞の表示単位を画面横1行に表示する技術を基にこれを応用したものであるから、同技術のうちの歌詞の表示単位を画面横1行に表示する技術に着目すれば、相違点1②に係る訂正発明となるのであり、相違点1②に係る訂正発明に想到する動機付けとなることを妨げる事情は、本件全証拠によっても認められない。

原告の上記主張は、失当である。

(4)  また、原告は、周知技術1は、単にアナログ方式のビデオディスク再生装置等の再生装置を使用してカラオケ用映像と音声を再生するために用いる記録装置に関するものにすぎないなどと主張して、本件決定を論難する。

しかしながら、本件決定は、カラオケ装置において、画面に表示される歌詞の表示を行単位に制御することが通常行われていることの一例として甲第9号証刊行物を引用しているのである。そして、周知技術1として知られている、画面に表示される歌詞の表示を行単位に制御するという技術が、アナログ方式であってはじめて意味があるとか、デジタル方式のものには適用できないとかいう特段の事情が認められない限り、当業者にとって、引用発明1に上記技術を適用することに格別困難はない、と考えるのが合理的であるというべきであるのに、本件全証拠によっても、上記特段の事情に該当する事実を認めることはできないのである。

原告の主張は、失当というほかない。

2  取消事由2(本件訂正の適否に係る相違点2についての判断の誤り)について

(1)  本件決定が、相違点2について、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示することは、引用刊行物4に記載されていると認定しているのに対し、原告は、引用発明4が、アナログ方式で音声情報と文字情報と映像情報とを混合して記録し、これに基づき歌詞を表示する方法に関する技術であることを理由に、訂正発明にいう、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示制御することは、示されていない旨主張する。

(イ) そもそも、カラオケ装置において、メロディ(伴奏)と歌詞の表示が一致していなければ、カラオケ本来の役割を果たすことができないことは自明であるから、カラオケ装置が正常に作動している限り、メロディ(伴奏)の出力と歌詞の表示は常に同期していなければならないことは、論ずるまでもないことである。そして、歌詞のデータがブロック単位で記録されている場合には、当然に、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示することになることも、明らかである。

他方、本件において、歌詞データを一区切りの「ブロック」を単位として記憶し、ブロックを指定する情報に基づいて表示することについて引用刊行物2、3に記載されていることは当事者間に争いがないのであるから、引用発明1のカラオケ装置に、引用発明2及び同3の上記技術を組み合せれば、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示する構成となることは明らかである。

(ロ) 念のために引用刊行物4について検討する。

歌詞として表示される文字情報を、歌詞に対応する伴奏の始まる直前から終わる直前(又は直後)まで表示することが、引用刊行物4に記載されていることは、当事者間に争いがない。

引用刊行物4(甲第8号証)に、「第1図において、1は伴奏曲に適する背景となる映像情報を混合器2に供給する映像情報供給装置であり、3はその曲の歌詞を文字情報として混合器2に供給する文字情報供給装置である。4は使用者が歌を歌うに際し音楽的に補助をなすために文字情報に着色を行う色調変化器である。これら映像情報と文字情報及び色調変化の混合信号は、混合器2にて混合された後、音声情報供給装置5が発生する伴奏曲としての音声情報と混合器6により混合され、ビデオテープレコーダ等の記録再生装置7にて記録される。この場合文字情報は音声情報と同期するように記録される。例えば曲「城ヶ島の雨」を記録する場合においては、「雨が降る降る城ヶ島の磯に」という歌詞に対応する伴奏が始まる直前から終わる直前(又は直後)まで「雨が降る降る」という歌詞が映し出されるように混合される」(決定書7頁9行~8頁6行)との記載があることは、原告も認めるところである。

上記記載によれば、歌詞として表示される文字情報は、その伴奏(演奏)に対応する期間に、伴奏に対応する歌詞のまとまり(ブロック)として表示されているものであり、当然に、文字情報は音声情報と同期するように記録されているのであるから、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示することが、引用刊行物4に記載されていることは明らかである。

(ハ) 原告は、引用発明4が、アナログ方式で音声情報と文字情報と映像情報とを混合して記録し、これに基づき歌詞を表示する方法に関する技術であることを理由に、訂正発明にいう、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示制御することは、示されていない旨主張するけれども、本件決定が引用発明4から引用したのは、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示制御するという技術思想であって、アナログ方式の装置において採用されているところの、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示制御する具体的な構成でないことは、決定書の記載自体から明らかであるから、原告の主張は失当である。

(ニ) 原告は、アナログ方式とデジタル方式との相違を根拠に、引用発明1に引用発明4を適用する動機付けがない旨主張する。

しかしながら、本件決定が引用発明4から引用しているのは、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示制御するという技術思想であることは上記のとおりであり、この技術思想が、アナログ方式であってはじめて意味があるとか、デジタル方式のものには適用できないとかいう特段の事情が認められない限り、引用発明4に接した当業者にとって、引用発明1に引用発明4を適用することに格別困難はないと考えるのが合理的というべきである。しかし、上記特段の事情に該当する事実は、本件全証拠によっても認めることができない。

原告の上記主張も、採用できない。

(2)  本件決定が、相違点2について、文字データ等の情報を表示手段に所望の時間表示する場合に、制御手段を設け、情報の表示開始と表示終了をそれぞれ指示する指示情報とに基づいて表示制御することは、当業者が容易に想到し得る設計的事項にすぎないと認定したのに対し、原告は、本件決定が、相違点2①を訂正発明に特有の新規な構成であると認めつつ、これを設計事項にすぎないとすると認定するのは、自らの判断と論理矛盾するものであり、違法である旨主張する。

(イ) 原告のいう相違点2①、すなわち、「音楽データ」が、「歌詞データを指定するインデックス情報」と「歌詞の表示開始を指示する指示情報」と「歌詞の表示終了を指示する指示情報」とを有するとの構成が、引用刊行物1ないし4や甲第9号証刊行物に記載されていないことは、当事者間に争いがない。

(ロ) しかしながら、文字データ等の所望の表示対象を表示手段に所望の時間表示する場合に、制御手段を設け、表示対象の特定、その表示開始及びその表示終了をそれぞれ指示する各指示情報に基づいて表示制御することが、周知の技術事項であることは、次のとおり明らかである。

そもそも、文字データ等の表示対象を表示手段に所望の時間表示するように表示制御をしようとするならば、その制御手段に対して、何らかの形で、文字データ等の表示対象を特定するための指示情報、その表示を開始することを指示するための指示情報及び表示を終了することを指示するための指示情報を入力しなければならず、また、そのようにすればよいことは、当業者でない一般人であっても容易に考えつく、自明というべき事項である。

ためしに、実願昭57-90396号(実開昭58-193394号、考案の名称「カラオケビデオ装置」)のマイクロフィルム(乙第1号証)をみると、同刊行物には、「ここでイントロと区間A1の終りの所定期間A2の間、モニターTV11の画面上に歌い出しのタイミングを取らせるための表示がされる。すなわちイントロ区間A1の終わりの所定期間A2の始りに対応するフレーム番号N1と終わりに対応するフレーム番号N2とを予め設定し・・・前記フレーム番号N1に一致したときにコントロール信号を発生し・・・モニターTV11の画面上に第2図に示すように写し出される。・・・フレーム番号が前記フレーム番号N2に一致したときに・・・歌い出しのタイミングを取らせる信号の発生を停止させる。」(5頁5行~6頁17行)との記載があることが認められ、また、特開平1-212186号公報(発明の名称「映像記録再生装置」、乙第2号証)によれば、同刊行物には、「メモリ18に格納されたインポーズデータは、・・・インポーズ開始信号によって・・・メモリ17に供給され・・・インポーズされた合成画像のデータに変わる。・・・その後、インポーズ終了信号・・・を検出すると・・・インポーズのない画像出力に戻る。」(4頁左上欄6行~右上欄1行)との記載があることが認められる。

これらの記載によれば、本件出願時において、表示の対象を特定し、その表示を行う場合に表示すべき対象の表示開始を指示する情報と表示終了を指示する情報とを用いて表示の制御を行うことは、当業者に広く知られた手法であることが認められる。

引用発明1についてみても、同発明が「伴奏音楽とその歌詞を映像として再生する音楽再生装置と、前記歌詞の背景映像の出力装置、前記音楽再生装置から出力された歌詞の映像を、背景映像出力装置から出力された背景映像に重ねるためのミクサー及びミクサーから入力された信号に基づいて前記歌詞の映像を背景映像に重ねて表示する受像機からなるカラオケ装置。」という技術であることは当事者間に争いがなく(決定書5頁1行~7行)、また、引用刊行物1(甲第5号証)中には、「この装置で使用する音楽再生装置1としては、伴奏音楽をアナログ信号で、歌詞をデジタル信号としてそれぞれ記憶させた磁気テープやビデオテープ、ビデオディスク・コンパクトディスクなどとその再生装置があり、・・・音楽再生装置1で再生された伴奏音楽がスピーカーから流れ、一方再生装置1で再生された歌詞の映像信号と出力装置2が出力した映像信号とがミクサー3に入力され・・・受像機4に出力され、」(3頁1行~19行)との記載があることが認められ、上記事実によれば、引用発明1は、音楽再生装置において、伴奏音楽の信号と、その歌詞の映像信号を同期させて再生していることは明らかである。そして、伴奏音楽の信号と、その歌詞の映像信号を同期させている以上、その制御手段において、何らかの形で、伴奏音楽の信号や歌詞の映像信号を特定するための指示情報、その表示を開始することを指示するための指示情報及び表示を終了することを指示するための指示情報を入力していることは論ずるまでもないことであり、引用刊行物1に、制御手段についての明示の記載がないのは、それが当たり前の事柄であったからということが可能である。

(ハ) そして、訂正発明や引用発明1が、「多数の曲の各々について演奏データを含む音楽データ及びこれに対応する歌詞データを記憶する演奏/歌詞データ記憶手段と、前記演奏/歌詞データ記憶手段から演奏データおよび歌詞データを読み出す制御手段と、この制御手段により読み出された演奏データを再生する演奏再生手段と、前記制御手段により読み出された歌詞データに基づいて歌詞を表示する表示手段とを有するカラオケ装置」であることは、弁論の全趣旨で明らかであり、上記カラオケ装置には、その構成上、データを収納する場所として「演奏/歌詞データ記憶手段」が存在し、ここに「音楽データ」と「歌詞データ」が記憶されているのである。

そうすると、当業者が、「歌詞データを指定するインデックス情報」、「歌詞の表示開始を指示する指示情報」、「歌詞の表示終了を指示する指示情報」を記録する場所として、「演奏/歌詞データ記憶手段」の「音楽データ」を選択し、ここに「演奏データ」とともに上記三つの情報(データ)を記録することは、ごく容易に考えつくことというべきである。

(ニ) 以上によれば、本件決定は、原告のいう相違点2①について明示の判断を示していないものの、「したがって、本件の訂正された特許請求の範囲の請求項に記載された発明の構成は、上記刊行物1~4記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。」と判断していることからすれば、周知の技術から極めて容易に想到し得た事項であったため、その判断を明示しなかっただけであると認めることもでき、また、仮にこの点についての判断が欠落しているとしても、その瑕疵は、本件決定の結論に影響を及ぼすものではない。

相違点2①についての原告の主張も、採用できない。

3  取消事由3(本件発明に係る相違点2についての判断の誤り)について

本件決定が、本件発明(本件訂正前の特許請求の範囲によるもの)に係る相違点2について、引用刊行物2、3には、表示単位に記憶された歌詞を演奏と同期して表示制御することが記載されており、このような制御を行うために、制御手段が「歌詞データのブロックを指定するインデックス情報」と「歌詞の表示開始と終了を指示する指示情報」に基づいて、制御するよう構成することは当業者が容易になし得ることであると判断しているのに対し、原告は、相違点2に係る本件発明の構成は、引用発明2及び同3に何ら開示されておらず、しかも、演奏再生手段により再生される演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示制御するために制御手段が基礎とするデータとして、音楽データが、その区分されて記憶された歌詞データのブロックを指定するインデックス情報と、その歌詞データに基づく歌詞の表示開始と表示終了を指示する指示情報を更に有するものとしたことについては、全く開示も示唆もされていない旨主張する。

(1)  カラオケ装置において、これが正常に作動している限り、メロディ(伴奏)の出力と歌詞の表示は常に同期していなければならず、歌詞のデータがブロック単位で記録されている場合には、当然に、演奏と同期して歌詞をブロック単位で表示することになることは、前述のとおりである。

また、歌詞データを一区切りの「ブロック」を単位として記憶し、ブロックを指定する情報に基づいて表示することについて引用刊行物2、3に記載されていることが当事者間に争いがないことも前記のとおりである。

そうすると、引用刊行物2、3には、表示単位に記憶された歌詞を演奏と同期して表示制御することが記載されているとした本件決定の認定に誤りがないことは明らかである。

(2)  次に、文字データ等の表示対象を表示手段に所望の時間表示する場合に、制御手段を設け、情報の表示開始と表示終了をそれぞれ指示する指示情報とに基づいて表示制御することが、周知の技術事項であることは、前記認定のとおりである。

また、「歌詞データを指定するインデックス情報」と「歌詞データに基づく歌詞の表示開始と表示終了を指示する指示情報」を記録する場所として、「演奏/歌詞データ記憶手段」の「音楽データ」を選択し、ここに「演奏データ」とともに上記情報(データ)を記録することが、当業者にとってごく容易に考えつくことであることは、前記認定に照らし明らかである。

そうすると、音楽データが、その区分されて記憶された歌詞データのブロックを指定するインデックス情報と、その歌詞データに基づく歌詞の表示開始と表示終了を指示する指示情報を有するという構成についても、周知の技術事項を前提に、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

原告の上記主張も、採用の限りでない。

4  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他本件決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見出せない。

よって、本訴請求を棄却することし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

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